福岡高等裁判所宮崎支部 平成9年(行コ)6号 判決 1999年4月16日
控訴人
鹿児島県教育委員会
右代表者教育長
德田穰
右訴訟代理人弁護士
池田洹
被控訴人
赤星秀一
右訴訟代理人弁護士
西田隆二
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の文書非開示決定取消請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。
二 当事者の主張は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決事実第三ないし第六の文書非開示決定取消請求関係部分の記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決三頁五行目から六行目の「(当裁判所に顕著な事実)」を「(乙七の六七頁以下参照)」に改める。
2 原判決一〇頁二行目の「争いない事実」を「争いのない事実等」に、六行目及び一〇行目の「公文書」を「公文書等」に、それぞれ改め、末行の末尾に次を加える。
「本件文書は、岩崎産業株式会社が行おうとする開発行為を文化財保護法八〇条一項との関係でどのように取り扱うべきかが問題となり、その判断資料として平成八年三月二二日控訴人が取得し、平成八年三月二五日鹿児島県文化財保護審議会名勝天然記念物部会を経て、控訴人において右判断を了したから、二条一項の公文書等に該当する。」
3 原判決一三頁三行目から一五頁一行目までを次に改める。
「一 本件文書提出の経緯等(乙三ないし五、弁論の全趣旨により認められる。)
1 事業者である岩崎産業株式会社の土地利用協議書の提出
事業者である岩崎産業株式会社(以下「事業者」という。)は、平成三年三月二九日、大島郡住用村市崎におけるゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)開発計画について、一定の土地の開発行為については知事との事前協議を求めることを定めた鹿児島県土地利用対策要綱(乙四。以下「要綱」という。)に基づいて、土地利用協議書を住用村長に提出した。
2 事業者に対する土地利用の条件付承認
鹿児島県文化課長(当時)は、企画部企画調整課長から本件ゴルフ場開発計画に対する法規制に関する意見を求められたのに対し、平成四年一月二一日、文化財保護法との関連で、埋蔵文化財が発見された場合、同法五七条の五所定の届出を住用村教育委員会になし、その取り扱いを協議することを求めた上で、「国指定特別天然記念物アマミノクロウサギ及び国指定天然記念物ルリカケス等の営巣地が発見された場合も、現状を変更することなく、住用村教育委員会に届出て協議すること。」との意見を付して回答し(乙五)、その後、土地対策委員会における調査審議を経て、鹿児島県知事は、同年三月三一日、文化課長の右意見を含む遵守事項などを条件として、右土地利用を承認した。
3 事業者と住用村教育委員会及び控訴人との協議
平成四年四月一九日、本件ゴルフ場の計画区域及びその周辺でアマミノクロウサギの糞が発見されたとの新聞報道がなされ、また、同月三〇日、住用村教育委員会の調査により、右計画区域でアマミノクロウサギの糞が確認されたため、同年五月、右教育委員会、控訴人及び事業者の三者で協議し、事業者がアマミノクロウサギの生息分布調査を実施することになった。
4 事業者による本件文書の作成・提出
事業者は平成五年四月一九日財団法人鹿児島県環境技術協会に右調査を委託し、同協会は平成六年七月一五日、本件文書を完成して事業者に引き渡した。事業者は、平成八年三月二二日、本件文書を住用村教育委員会を経由して控訴人に提出した。
5 控訴人の判断及び文化庁に対する照会
控訴人は、平成八年三月二五日、県文化財保護審議会名勝天然記念物部会の審議を経た上で、本件ゴルフ場開発は天然記念物に影響を及ぼす行為であるが、「事業者が天然記念物の保護のために必要な措置を講ずること、併せて住用村教育委員会及び控訴人が適宜、天然記念物の適切な保護のために必要な指導助言を行うことによって、開発に伴う影響は軽微である(従って、文化財保護法八〇条一項但書に該当する。)。よって、本件開発事業は文化財保護法八〇条一項の文化庁長官の許可(なお、この許可は同法九九条一項二号、昭和三九年六月二七日文化財保護委員会告示第四三号により控訴人に委任されている。)を要する行為に該当しない。」と判断したうえで、右判断の適否について、同月二七日、文化庁長官に対し照会するとともに、本件文書を関係書類の一部として送付した。文化庁長官の判断は未だなされていない。
二 控訴人の主張
1 八条三号該当性」
4 原判決一五頁六行目の「あるから、」を「あり、そのことは事業者にとっても不利益であるから、」に改め、七行目と八行目の間に次を加える。
「 また、同号所定の「競争上の地位」は例示であり、法人等の何らかの正当な利益を侵害する場合には同号に該当することになると解釈すべきところ、後記4のとおり、本件文書については、事業者が著作権(複製権)を、財団法人鹿児島県環境技術協会が著作者人格権(公表権)を、それぞれ有しており、これらは事業者らの社会的活動の自由の一環をなすものであるから、本件文書を開示することは事業者らの正当な利益を侵害することになる。なお、このように著作権等の主張は、八条三号に該当するものであるから同号を処分理由として挙げている以上、その根拠事由の追加にすぎないから、その事由の主張の追加を制限すべきではない。」
5 原判決一五頁八行目の「3」及び一六頁五行目の「4」を順次「2」及び「3」に改める。
6 原判決一五頁九行目の「本件文書は」の次に「、文化庁長官又は控訴人が、本件ゴルフ場開発が文化財保護法八〇条一項の所定の許可を要する行為に該当するかどうか、該当する場合に許可を与えるかどうかの意思形成過程において取得した文書であり、文化庁長官又は控訴人の」を加える。
7 一六頁四行目と五行目の間に次を加える。
「 即ち、本件文書は、高度の専門知識を要する動物の生態等に関するものであり、県民の多くは、これに基づいて自分で判断することができず、一定の見解を持つ者の意図的な宣伝により、本件文書の内容につき誤解をし、本件ゴルフ場開発につき無用の混乱を招くことになるから、本件文書は、「行政内部で検討中の案件又は精度の不十分な資料等で、開示することにより県民に誤解を与えたり、又は無用の混乱を招くおそれのある情報」に該当し、「意思形成に支障を生ずると認められるもの」に該当する。」
8 原判決一七頁四行目を次に改める。
「4 著作権及び著作者人格権
以下に述べるとおり、事業者及び財団法人鹿児島県環境技術協会は本件文書につき著作権等を有するところ、著作権等の存在は、著作権法上認められる権利を条例によって侵害することはできないという内在的制約があり、これにより非開示理由となるものである。また、処分理由の追加の許否については、これを許さなければ、処分の取消後の再度の開示請求に対し、その処分理由によって再度拒否処分をすることになり、紛争が繰り返されることになるから、原則として処分理由の追加を認めるべきである。また、著作権等の主張は、前記1のとおり八条三号に該当し、八条三号を処分理由として挙げている以上、右主張の追加を制限すべきではない。」
9 原判決一八頁二行目の末尾に「また、財団法人鹿児島県環境技術協会が著作者人格権を有している。」を加える。
10 原判決一八頁五行目の「二」を「三」に改め、六行目から一九頁四行目までを削除し、五行目の「2」(二か所)、一〇行目の「3」(二か所)、同行及び二二頁一行目の「4」、同行の「5」を順次「1」ないし「4」に繰り上げる。
11 原判決一九頁九行目と一〇行目の間に次を加える。
「 また、著作権等の主張については、本件処分時には理由とされていなかったものであり、かつまた、控訴人は原審はもとより当審の途中まではこれを八条三号の問題としてではなく独立した非開示理由として主張してきたほか、後記3と同様の理由により処分理由の追加を認めるべきではない。また、八条三号の文言からは、単に開示が第三者に何らかの不利益を与えるというだけではなく、開示される情報の性質から開示により第三者の競争上の地位を侵害することを要件としているものと解釈すべきであり、本件のように開示される情報の内容が事業者等の事業活動に実害を与えるとの主張がなく、また、そのようには認められず、単に開示することが形式的に著作権等の侵害に当たるというだけでは右に該当しない。さらに、仮にそうではないとしても、右主張は後記3のとおり理由がない。」
12 原判決二〇頁三行目から五行目までを次に改める。
「(二) 本件文書は、本件ゴルフ場開発について要綱に基づく土地利用協議を行い、右土地利用について知事の承認を受けた際に付された遵守事項に基づいて提出された文書であり、既に土地利用に対する知事の承認、即ち意思形成がなされた後のもので、その承認に付された条件の履行行為に関連する文書であるから、意思形成「過程」情報に当たらない。
また、控訴人は、平成八年三月二五日ころ、本件ゴルフ場開発は天然記念物に影響を及ぼす行為であるが、その影響は軽微で、文化財保護法八〇条一項但書に該当するから、文化財保護法八〇条一項の文化庁長官の許可を要する行為に該当しないと判断したのであるから、もはや県の意思形成に支障を生じさせるものではなくなった。なお、文化庁長官の判断が未了であるとしても、本件文書の開示が右判断に悪影響を及ぼすようなことは考えられない。」
13 原判決二二頁一行目と二行目の間に次を加える。
「 著作権等の主張は処分理由の追加にあたるところ、本条例が非開示の理由の付記を義務づけている趣旨は、これによって行政処分の合理性を担保し、併せて不服申立の便宜を図るものであるが、訴訟提起後になって随時新たな処分理由を追加して主張できることになれば、このような趣旨は全く没却されるから処分理由の追加は許されない。また、このような趣旨からすれば、処分の取消後の再度の開示請求に対し、右処分理由で再度非開示処分をすることは許されないというべきである。また、仮に、追加が認められるとしても、右主張には次に述べるとおり理由がない。即ち、」
14 原判決二二頁三行目及び四行目を次に改める。
「(二) 本件文書は、控訴人において本件ゴルフ場開発が文化財保護法八〇条一項所定の許可を要する行為に該当するかどうかの判断をするための資料として提出する目的で、事業者が作成したものであり、このように行政機関の判断資料に供するべく提出する目的で作成された文書は、著作権等を主張せずに行政機関の判断で公表されることを許容する趣旨で作成提出されたものというべきである。」
15 原判決二二頁末行と二三頁一行目の間に次を加える。
「(四) 右のように本件文書の開示は公共上の必要性が高いから、単に、著作権等があるというだけではなく、開示により著作権者らに具体的な損害が発生する場合に、さらに、双方の利益考量をした上で開示の許否を決すべきであるが、著作権者らに具体的な損害が発生するとは認められない。」
理由
一 当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決理由第一ないし第三に記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決二四頁六行目の「規定し」の次に「(乙七の六八頁参照)」を、同頁九行目の「八条」の前に「七条二項、同条四項」を、二六頁三行目の「その具体的中身」の前に「これが、知ることを妨げられない権利というに止まらず、一般国民ないし県民が単にその立場で国等の機関に対し積極的に情報の開示を求める権利としては、」を、それぞれ加える。
2 原判決二七頁末行の「当裁判所に顕著な事実であるが」を「乙七により認められるが」に、同行の「一定の」を「七条一項の定める」に、それぞれ改める。
3 原判決二八頁八行目から三〇頁九行目までを次に改める。
「一 本件文書提出の趣旨・目的等
前記事実欄第六の一の本件文書提出の経緯等によれば、本件文書が、控訴人において本件ゴルフ場開発を文化財保護法八〇条一項との関係でどのように取り扱うべきかを判断するための資料として取得したこと自体は明らかである。そこで、さらに、他に、具体的な趣旨・目的があったのかについて見るに、まず、前記土地利用承認の遵守事項との関係では、右遵守事項はアマミノクロウサギ等の営巣地が発見された場合に住用村教育委員会への報告と協議を求めるだけであるから、本件文書が直ちにこれに基づいて提出されたものとはいえない。また、控訴人が本件ゴルフ場開発が文化財保護法八〇条一項の許可を要しない行為であると判断していること、現に、事業者からの右許可申請がなされたとの事実は認められないことなどからすると同項の許可申請書類として提出されたとも認められず、結局、本件文書は、右のとおり控訴人の判断資料を提供するため、事業者が任意に作成して提出したものと認められる。従ってまた、文化庁長官に対する前記照会の性格も機関委任事務の処理に関し上級庁たる文化庁長官に対し事前に指導を求めるものであって(文化財保護法一〇四条一項参照)、本件文書が、文化財保護法の規定に基づいて文化庁長官に提出すべき書類として、控訴人が提出を受けた上で意見を具して文化庁長官に送付した(文化財保護法一〇三条一、二項参照)ものとも認められない。」
4 原判決三四頁六行目と七行目の間に「引用文献」を加える。
5 原判決三五頁四行目から五行目の「同決定書」を「非開示決定通知書」に改める。
6 原判決三六頁五行目から三七頁七行目までを次に改める。
「このような趣旨からすれば、公文書の非開示決定通知書には、八条各号所定の非開示事由のどれに該当するのかだけではなく、その判断の根拠を知りうる程度の理由を付記しなければならないというべきであり、ただ、当該公文書の種類、性質、作成及び取得の経緯等から、非開示事由のどれに該当するのかを示すだけで、開示請求者において当然右根拠を知り得るような場合はそれ以上の記載がなくても理由付記の要件を欠くとはいえないと解すべきである。」
7 原判決三九頁六行目の「ただし、」から八行目末尾までを次に改める。
「しかし、さらに、その非開示事由の根拠を開示請求者において知り得るかどうかを子細に検討すると、右2(一)ないし(三)の非開示理由の記載内容を全体的に見るとともに、本件文書が事業者の本件ゴルフ場開発区域から国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギの糞が見つかったことから文化財保護法八〇条一項との関係で作成され、それに関する判断を左右する重要な文書であること(このことは、前記新聞報道がなされたこと等から、本件処分時において、一般に知ることができたと認められる。)、右判断次第では、本件ゴルフ場計画が大幅に遅延したり、計画変更を余儀なくされるおそれがあること、右許可が控訴人の機関委任事務であり、文化庁長官の指揮監督を受けることなども考え併せると、控訴人の判断の根拠は、概ね、控訴人が原審において当初から主張していた事実欄第六の二の控訴人の主張1ないし3のように、右のような重要な意義を有する本件文書を開示すれば、アマミノクロウサギ等の保護や本件ゴルフ場開発の当否について不当な宣伝がなされて誤った方向での県民等の議論を巻き起こし、ひいては、本来可能であるべき本件ゴルフ場開発に右のような支障を来すおそれがあり、また、このような文書を開示すること自体も、本件ゴルフ場開発の円滑な遂行に重大な利害を有する事業者及び右指揮監督権限を有する文化庁長官との信頼関係を傷つけ、そのことがそれぞれの不利益となるというものであるととらえるのが自然であり、被控訴人においても十分に検討すれば控訴人の判断の根拠がこのような趣旨のものであると判断することが可能であったということができ、そうであれば、判断の根拠自体が抽象的でありそれが非開示理由に該当するかどうかの問題があることは別として、理由付記の要件を欠くものではないということができる。なお、さらに著作権等との関係について付言するに、まず、後記五のとおり本件処分の処分理由には著作権等は含まれているとは到底解することができない。もし、右記載内容等から処分理由に著作権等の侵害を含むとすれば、右記載内容からでは控訴人がそのような非開示事由が存すると判断した根拠を知ることができず、理由付記の要件を欠くことになる。即ち、まず、財団法人鹿児島県環境技術協会の著作者人格権については、右2(一)の非開示理由には「事業者の正当な利益を害する」旨記載されているが、本件文書の作成及び提出経緯等からすれば、右の「事業者」とは岩崎産業株式会社を意味するものと解するのが自然であり、処分理由には右協会の著作者人格権を含んでいないと判断することができる。また、事業者(岩崎産業株式会社)の著作権についても、後記二3のとおり八条三号が本件のような場合を非開示事由とする趣旨であるとは考えられないことから、同様に解することができる。そこで、控訴人主張の非開示理由について以下順次検討する。」に改める。
8 原判決四一頁七行目から四二頁三行目までを次に改める。
「 本件文書が法人に関する情報であり、事業活動情報に属することは明らかである。」
9 原判決四二頁七行目の「望んでいる」の次に「など」を加え、四三頁三行目の「反するのみならず」から一〇行目末尾までを次に改める。
「反することになる。また、八条三号所定の「競争上の地位」が控訴人の主張するように例示であるとしても、その文言及び右趣旨からして、全く無限定に「何らかの正当な利益を害する」場合は開示しないことができるとしたものではなく、その開示が法人ないし事業を行う個人の本来のしかも正当な事業活動に支障を来す情報を意味するものというべきである。そして、本件文書の開示が事業者の本来の事業活動である本件ゴルフ場開発事業に不当に悪影響を及ぼすと認めるに足りる証拠はないし、本件文書を開示すること自体によって、当然に、事業者との信頼関係が損なわれることも認められない。よって、事業者の正当な利益を害するとの主張については理由がない。さらに、事業者らの著作権等を侵害するとの主張についても、同様に同号が単に第三者が当該文書につき著作権等を有するというだけで、開示によって侵害される事業者の具体的な利益の有無、程度等を問題とするまでもなく、非開示事由とする趣旨ではないと解され、そもそも本件文書が控訴人において本件ゴルフ場開発を文化財保護法八〇条一項との関係でどのように取り扱うべきかを判断するための資料として提出する目的で作成されたことに鑑みれば、これを開示することによって、少なくとも事業者については具体的な利益を侵害することになるとは考えられず、この点について特段の主張がない以上、既に理由がないというべきである。また、財団法人鹿児島県環境技術協会の著作者人格権について見ても、右と同様に解することができるほか、本件非開示処分通知書には事業者の利益に関する記載はあるが、同法人の利益に関する記載がないことからすると、開示請求者としては、むしろ三号該当性の根拠としては同法人に関するものは存在しないと判断するのが通常であり、なお、後記五のとおりの理由により、三号該当性の根拠の主張として追加することも許されないと解するのが相当であるから、この点についての控訴人の主張はいずれにしても理由がない。」
10 原判決四七頁六行目から四八頁一〇行目までを次に改める。
「 本件文書提出の趣旨等は、前記第二の一のとおりであり、土地利用承認の遵守事項に関してはいるが、単にこれに止まるものではなく、本件ゴルフ場開発を文化財保護法八〇条一項との関係でどのように取り扱うべきかを控訴人が判断するための資料として取得したものである。また、これは直接同項の許可申請書類として提出されたとは認められず、右許可申請が必要な行為であるかの判断資料として提出されたものであるが、もし、同項の許可を必要とする行為であるのに許可を受けることなく天然記念物等の現状変更等の行為を行えば現状回復を命じる必要があり、また、事業者としても許可を必要とする行為であればその許可申請をなす意思であったことは容易に推認することができ、かつ、控訴人が文化庁長官に対して前記照会をしているということ自体、逆に本件ゴルフ場開発が同項但書に該当しない行為であり同項の許可を必要とすると判断されることも想定しているものであることなどからして、控訴人又は文化庁長官の同条の事務にかかる意思形成過程において取得した情報であるということができる。」
11 原判決五〇頁五行目から九行目までを次に改める。
「 控訴人は、本件文書の専門性を指摘するが、原審検証の結果によれば、本件文書は特殊な専門用語や情報処理の方法を使用しているわけではなく、動物の生態等に関する専門家でなければ記載内容が理解できないものではないと認められ、他に控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。」
12 原判決五一頁九行目の「の許可に関する」から五二頁七行目までを次に改める。
「、許可を必要とする行為であるかなどを控訴人が判断するための資料として取得したもので、具体的には未だ許可申請がなされていないのであるが、右三2の本件文書の提出の趣旨等からすれば、文化財保護法八〇条一項の許可に関して取得された情報であるということができ、県又は国等が行う許可などの事務事業に関する情報であるということができる。」
13 原判決五二頁八行目の「仮に」から「としても、」までを削除する。
14 原判決五四頁九行目の「をもって、」の次に「当然に、」を加え、五五頁一行目の「があるとまでは」から二行目末尾までを「があるとは認められず、また、本件において、他に右おそれがあることを示す事情を認めるに足りる証拠はない。」に改める。
15 原判決五五頁八行目から五六頁六行目までを次に改める。
「五 著作権等の主張について
本件処分の際には、著作権等を非開示の理由としておらず、したがってまた、非開示決定通知書にそれを窺わせる記載が全くなかったことは前記一3のとおりである。そこで、処分理由の追加が許されるかどうかについて検討するに、このように付記された理由から想定もしないような処分理由の追加主張が無制限に認められることになれば、例えば、実施機関が、非開示事由に当たらない何らかの事情で開示を希望しない公文書等について、正当な非開示理由があるかどうか十分な検討をせずに適宜の理由を付記して非開示処分とし、その後訴訟経過に応じて、処分時には想定もせず本来意図するところでないようなものも含めて様々な処分理由を主張した場合でも、そのうちの一つでも認められれば処分が維持されることになってしまい、そのような事例が積み重なれば、そのような悪しき運用を促進するおそれが十分にある。また、そうなれば開示請求者としては、付記された理由からは不服申立をなすべきかどうかの手がかりすら得られないということになってしまうから、前記の理由付記の規定の趣旨は全く没却され、理由付記が不要であるというのと実際上変わりがなくなる。これを本件についてみると、その付記された理由は甚だ抽象的でいかなる根拠をもって非開示事由に該当するという趣旨なのか一見して明らかではなく、しかも、本件訴訟の審理経過においても、十分に具体化されることなく抽象的なものに止まっていて、このような点からすると処分時に十分な検討がなされたとは考えられない。また、右著作権等の主張について見るに、本件処分の処分理由として著作権等を記載することには何らの支障もないと考えられるにもかかわらず、前記一2(一)ないし(三)の記載内容に著作権等を非開示の根拠としていることを窺わせる部分が全くないこと、本件文書の作成・提出経緯、著作権等が本件訴訟において主張された時期が、事業者の著作権については、原審第三回口頭弁論期日においていかなる非開示事由に該当するのかの主張がないまま事業者が著作権を有する旨主張されたことに始まり、財団法人鹿児島県環境技術協会の著作者人格権については当審第四回口頭弁論期日においてである(いずれも準備書面は事前に提出されている。)ことなどからすると、控訴人が本件処分において著作権等を処分理由としていなかったことはもちろん(なお、控訴人もこれを前提として主張している。)、控訴人としては本件処分当時このような根拠は想定もしていなかったと推認することができる。しかも、右のような訴訟経過でなされた処分理由の追加主張を許せば、右に述べたとおり規定の趣旨が全く没却されるおそれがあり、是認できない。もちろん、本件訴訟において処分理由の追加を許さなければ、本件処分を取り消す判決が確定し再度の開示請求がなされた場合に、追加を認められなかった理由によって再度の非開示処分を行うようなことになり、紛争の効率的解決が図られないおそれがあることは否定できないが、実施機関において、本来意図していた理由が非開示事由に該当しないとして処分が取り消された後に、たまたま発見した本来意図していない理由を掲げて再度の非開示処分を現実に行うかどうか、また、そのような処分が許されるかどうかは別個の問題であり、そのような事態を憂慮して、制度の趣旨を没却するのを容認することは相当ではない。
また、控訴人は処分理由として八条三号を挙げていることから処分理由の追加を認めるべきであると主張するが、同号が第三者の利益保護を図る趣旨の規定であるからといって、同号を掲げるだけで、後に第三者の利益に関する事由を全て主張できるということになれば、あまりに無限定で前記の弊害を免れることはできない。よって、控訴人の右主張も採用できない。
以上のとおり、本件において、著作権等を侵害する旨の処分理由を追加して主張することは許されない。」
二 よって、原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。
(裁判長裁判官海保寛 裁判官多見谷寿郎 裁判官水野有子)